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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)12368号 判決 1987年11月18日

主文

一  原告上出美津江が別紙物件目録一ないし六記載の土地につき六分の一の共有持分権を有することを確認する。

二  原告上出幟が別紙物件目録七記載の土地につき所有権を有することを確認する。

三  原告角田ミチ子が別紙物件目録八記載の土地につき二四分の七の共有持分権を有することを確認する。

四  原告上出美津江、同角田ミチ子のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告上出美津江(以下「原告美津江」という。)が別紙物件目録一ないし六記載の土地(以下「本件一ないし六の土地」という。)につき所有権を有することを確認する。

2  原告上出幟(以下「原告幟」という。)が別紙物件目録七記載の土地(以下「本件七の土地」という。)につき所有権を有することを確認する。

3  原告角田ミチ子(以下「原告ミチ子」という。)が別紙物件目録八記載の土地(以下「本件八の土地」という。)につき二分の一の共有持分権を有することを確認する。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告嶋田三郎(以下「被告三郎」という。)は、訴外嶋田カツ(以下「カツ」という。)の夫であり、被告嶋田榕子(以下「被告榕子」という。)は、カツの長女、原告美津江は、カツの二女、原告ミチ子は、カツの三女であり、いずれも、カツの相続人である。原告幟は、原告美津江の夫である。

なお、被告三郎は、昭和六二年七月六日東京家庭裁判所において禁治産宣告の審判を受け、弁護士神原夏樹が後見人に選任された。

2  カツは、昭和六一年四月三日死亡した。

3  本件一ないし八の土地は、カツが生前所有権(ただし、本件八の土地については四分の一の共有持分権)を有していた。

すなわち、カツは、本件一、二の土地につき、昭和四六年七月一三日売買を原因として前所有者からその所有権を取得し、本件三ないし六の土地につき、昭和四一年四月二〇日売買を原因として前所有者からその所有権を取得し、本件七の土地につき、昭和四九年一月二四日売買を原因として前所有者からその所有権を取得し、本件八の土地につき、昭和四七年一二月六日売買を原因として前所有者からその四分の一の共有持分権を取得した。

4  亡カツは、生前、次の遺言をした。

(一) 昭和五八年二月一一日付自筆証書遺言

本件三ないし六の土地を原告美津江に相続させる。

(二) 昭和五八年二月一九日付自筆証書遺言

本件一、二の土地を原告美津江に相続させる。

(三) 昭和五九年七月一日付自筆証書遺言

本件七の土地を原告幟に遺贈する。

(四) 昭和五九年七月一日付自筆証書遺言

本件八の土地の四分の一の持分を原告ミチ子に相続させる。

5  右各遺言書は、昭和六一年六月二三日東京家庭裁判所において検認手続を経たが、被告らは、原告の右各遺言による権利取得を争う。

6  原告ミチ子は、本件八の土地につきカツの持分とは別に、四分の一の共有持分権を有していた。

7  よって、原告美津江は、主位的に遺贈、予備的に相続に基づき本件一ないし六の土地につき所有権を有すること、原告幟は、遺贈に基づき本件七の土地につき所有権を有すること、原告ミチ子は、主位的に遺贈、予備的に相続に基づき本件八の土地につき二分の一(自己の持分四分の一とカツから承継した持分四分の一)の共有持分権を有することの各確認を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

(被告三郎)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は認める。

3 同3の事実は不知。

4 同4の事実は不知。

5 同5の事実中、検認手続の点については不知。

6 同6の事実は不知。

(被告榕子)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は認める。

3 同3の事実は否認する。本件一ないし八の土地は、いずれも被告三郎が前所有者から買い受けたもので、同被告の所有するものである。

4 同4の事実は不知。仮に、カツが原告ら主張の各遺言書を作成したとしても、それは原告が甘言を弄しカツを巧みにあやつって作成させたもので、カツの意思に基づくものではない。

5 なお、原告美津江及び同ミチ子は、その主張する各遺言により確定的に各不動産の所有権又は四分の一の共有持分権を取得することを前提にしているが、分割方法の指定ないし相続分の指定をする遺言自体によっては、当然にその相続人が当該不動産の所有権を取得し得るものではなく、遺産分割の協議、調停が成立し、又は審判がなされ、遺産の分割が実施されることによって、初めて相続開始の時に遡って当該不動産の所有権取得の効果が付与され、権利の帰属が具体化されるのであるから、未だ遺産分割の手続が行なわれていない本件においては、右原告ら主張の各不動産は遺産共有の状態にあるにすぎない。したがって、右原告らの前記遺言による権利取得を前提とする主張は理由がない。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲第七ないし第一四号証、第一六号証、原告美津江本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一五、第二三号証、原告美津江本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、請求原因3の事実を認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、被告榕子は、本件一ないし八の土地の権利はいずれも被告三郎が取得していた旨主張するが、本件において右主張に沿う証拠はないのみならず、そもそも被告三郎は本件で右のような主張をしていないばかりか、これまでカツに対し右のような権利主張をした形跡も見当たらない。してみれば、被告榕子の右主張は到底採用できない。

三  被告三郎との間においては成立に争いがなく、被告榕子との間においては原告美津江本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一号証の三、四、六、原告美津江本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一九号証の一ないし三、第二二号証の二、原告美津江本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、カツは、生前、請求原因4(一)ないし(四)のとおりの遺言をしたことが認められ(なお、甲第一号証の四記載の「二九六―六」とあるのは「二九六―三」、甲第一号証の六記載の「高九乙上の林」とあるのは「高久乙上の林」の各誤記と認める。)、この認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、相続人でない原告幟に対する右遺言の趣旨を遺贈と解すべきことは明らかであるが、相続人である原告美津江及び同ミチ子に対する右各遺言の趣旨を右同様遺贈と解することができるかは問題である。

一般に、被相続人が特定の遺言を共同相続人の一人に取得させる旨の遺言をした場合、これを遺贈とみるべきか、それとも遺産分割方法の指定とみるべきかは、被相続人の遺言の意思解釈の問題に帰着するところ、本件では、カツは右各遺言の対象にした不動産以外にも多くの遺産を残しており(この点は弁論の全趣旨に徴して明らかである。)、かつ、原告美津江及び同ミチ子に対する右各遺言書には相続させる旨の文言が使用されていることなどを考えると、右各遺言の趣旨は遺産分割方法の指定と解するのが相当である。

そうすると、原告美津江及び同ミチ子は遺言によって直ちにカツの有した権利を取得し得るものではなく、遺産分割の手続で右各遺言の趣旨に従った分割が実施されることにより、初めて相続開始時に遡って、権利帰属が具体的に確定されるのであり、それまでは遺産共有の状態にあるにとどまるから、未だ遺産分割の行なわれていないことが明らかな本件においては、右原告らは法定相続分の範囲で権利を承継しているにすぎないといわなければならない。

してみれば、原告美津江は、本件一ないし六の土地につき法定相続分として六分の一の共有持分権を、原告ミチ子は、本件八の土地のカツの持分四分の一につき法定相続分として六分の一の共有持分権を承継したことになる。

なお、前掲甲第一四号証によれば、原告ミチ子は、本件八の土地についてカツの持分とは別にもともと四分の一の共有持分権を有していたことが認められるから、これと前記相続分を合せると二四分の七の共有持分権を有することになる。

四  よって、原告美津江の請求は本件一ないし六の土地につき六分の一の共有持分権を有することの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却し、原告幟の請求は理由があるからこれを認容し、原告ミチ子の請求は本件八の土地につき二四分の七の共有持分権を有することの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

別紙

物件目録

一 所在  浦和市中島四丁目

地番  二九二番三

地目  雑種地

地積  三九三平方メートル

二 所在  浦和市中島四丁目

地番  二九六番三

地目  雑種地

地積  一三三平方メートル

三 所在  那須郡那須町大字高久乙字上ノ林

地番  一八四六番一二

地目  山林

地積  八三六平方メートル

四 所在  右同所

地番  一八四六番七八

地目  山林

地積  九二五平方メートル

五 所在  右同所

地番  一八四六番七九

地目  山林

地積  九七一平方メートル

六 所在  右同所

地番  一八四六番八〇

地目  山林

地積  九三八平方メートル

七 所在  右同所

地番  一八四六番一一六

地目  山林

地積  六六一平方メートル

八 所在  右同所

地番  一八四六番一一五

地目  山林

地積  三〇一四平方メートル

(ただし、カツの持分四分の一)

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